#004 都市計画を発表します -3

 ファレンカルク伯爵は、四年前に財務卿を引退した後、魔王皇帝陛下のご命令を受けて、孫娘、つまり私の家庭教師をしていた。
 私にとっての彼、ファレンカルク伯爵は優しいけど容赦ない家庭教師の先生だった。だって、商が立ちにくい割り算のひっ算を三千問も解かせたんだよ。あと、因数分解は五千問だし、連立方程式は一万問も問題を解かされた。死ぬかと思った。
 おかげで筆算のスキルはカンストした。

 そんなご縁で、私は、新魔王城下町を作ると決めてすぐ、彼に相談したの。
 もうわかったでしょ?

 鬼のコストカッターに、予算要求書を書かせたら最強だってこと。 
 そういう彼も、「予算要求とはこうやるものだ、諸君!」というのを内心はやりたかったらしい。結果、最初は私のお話にあきれていた彼も、いつの間にか嬉々として新魔王城下町建設事業の計画概略案の作成に取り組んでくれた。

 実のことを言うと、現・魔王帝国財務卿にはファレンカルク伯爵を通じて、内々に今回の新魔王城下町建設計画について、内諾を得ているの。私は、今日という日のために、ずいぶん前から準備してきた。

 ほら、舞台隅に下がった大司祭様の元へ、魔王皇帝陛下のお使いが走ってきた。大司祭様は、驚いたような、呆れたような顔をしていた。
 お使いが伝えた魔王皇帝陛下からの伝言は、「もし、この大集会でシスティーナが魔族諸侯並びに眷属の将兵らを説き伏せたら、遠征計画の変更を認めよ」という内容のもの。これも、私がお爺ちゃん、じゃなくって魔王皇帝陛下に願い出て、事前に勅令状を書いてもらったの。

 勅令状の巻物を手に、大司祭様は、どこか愉しそうに喧噪で満ちた大会議堂を見遣っていた。遠征の前の大集会は、本当はもっと粛々と進めるはずのもの。それが、誰もが好き勝手にしゃべり出していた。

 次々と発言を求める手が挙がり、私とファレンカルク伯爵、さらにはビックホーン男爵や、後ろに控えていた獣人騎士団たちもが進み出て、回答を始めた。


「ゴーレムと石材がたくさんいるのか? 俺たちにも出番はあるんだろうな」
 小人族の召喚術士たちが、わらわらと舞台にあがってきた。
「はい。歓迎します。よろしくお願いします」

 けほん。
 真横で咳払いがした。   
「これでよろしいかな、姫殿下」
 小人族の長老が長い白髭をしごいている。舞台の上だけに、長老も一張羅を着込んで、カッコよく決めていた。
「はい。感謝します。エルイット長老様」
 小人族を束ねるエルイット長老にも、事前にお話をしていた。ただし、エルイット長老は、私が魔族諸侯から了解を得られたら、村の者たちを連れて舞台にあがってくれるという、条件付きのお約束だったの。
 
 とは言え、ちゃんと一帳羅を着込んで準備してたあたり、内心は面白い話があるなら参加したいという、乗り気満々だったようね。

 彼ら小人族の召喚術士たちには、ストーンゴーレムを召喚して、都市建設の基盤整備を担ってもらう。
 巨大都市を丸ごとひとつ新規に作るんだから、石材が山ほど必要なの。本当に、原石山をひとつまるごと石材に変えて、建設現場へ運搬して、指定の形状に加工し、積みあげる必要がある。ストーンゴーレムは、施工に欠かせない戦力になるわ。

 だけどね、ストーンゴーレムなんて旧式で時代遅れなモノ、最近の戦いでは使われなくなっていた。何と言っても重量があり過ぎで、動きが緩慢。最近は、中央帝都工学院で高性能な鋼鉄ゴーレムが開発、実用化された。デカくて取り回しの悪いストーンゴーレムは、魔王帝国軍では廃棄処分されてしまったの。
 以来、小人族の召喚術士たちは、ゴーレムじゃなくて、もっと小型の魔獣や精霊を召喚するようになっていた。つまり、戦いの第一線からはお払い箱になった。

 そんな、彼らに、私は、「ストーンゴーレムを主戦力に都市攻略戦を始めるから、来てください」とお誘いを出した。彼ら小人族召喚術士たちは、ふて寝ばかりの生活を送っていた。来てくれるのかは、正直微妙だったけど、大勢の小人族の仲間を集めてくれたエルイット長老には、感謝しかない。

 うん、毎日、肩たたきをしよう。

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