#005 都市計画を発表します -4

 それから、この大集会の場で、中央帝都工学院にいる技巧官を二十名ほど使えるように求めた。
 彼らは魔族の都である中央帝都にいて、巨大な中央帝都の施設を設計する仕事に従事している。日々、多数の建物の設計を手掛けているの。
 だから、最新デザインの建築様式はもちろん、メンテナンス性や施工性も考慮した素晴らしい設計をお願いできるのは、彼らしかいないと思った。

 新しい魔王城下町をまっさらな更地から建設するんだもの。運河に掛ける橋梁や、教会、穀物貯蔵サイロ、市庁舎、図書館、病院、兵団指揮所…… ありとあらゆる建物の設計図が必要になる。
 デザインも中央帝都と同じ水準で、新しくて洗練されたものにしたい。

 あと、人類の六王国を相手にする以上は、施工性も大切だった。あんまり時間をかけ過ぎるわけにはいかないの。特に外周城壁や、堀を兼ねる運河など、都市防衛に関係する施設は、着工から竣工までにかかる工期を圧縮したかった。
 そのためには、施工性が大切で、進捗管理も含めて、中央帝都工学院にいる技巧官たち、彼らの技術を頼りたい。

 もちろん、中央帝都からこんなド田舎へ連れてくるわけにはいかない。都市計画図を中央帝都工学院に郵送して、建物の詳細設計をお願いすることにしたの。
 実際に、新魔王城下町建設現場へ赴任してもらうのはひとりだけ。単身赴任になっちゃうから、大変に申し訳ないけど。

 そして、中央帝都から私の元に赴任してくれたのは、エトルリアさん。五十一歳。いわゆる職人気質がつなぎを着て歩いているタイプ。
「こういう騒ぎは、俺の気性に合わん」とか恥ずかしがる彼も、舞台の上に引っ張りあげた。
 
 最後に魔王帝国軍、施設大隊のごっつい皆さんも、ぞろぞろと舞台へあがってもらう。さすがに施設大隊ともなると、魔族と眷属合わせて5千人規模なので、各チームの代表者だけなんだけど、急に舞台が狭くなった。

「さあ、みんながしあわせになれる街を一緒につくりましょう。どうぞ、ご助力のほど、よろしくお願いしま……」
 ゆっくりと締めの言葉を発したところ……

「ちょっと、待ちなさ~いっ!」
 黄色い声が大会議堂に響いた。
「骸骨兵団を全部持っていくとか言ってるのに、あたしに声がかからないのは、どういうことよ!」
 真っ黒なドレス姿のダークエルフが舞台にあがってきた。
 あ、やっと来てくれた。

「システィーナぁ、これ、どういうことよ」
 私と同じ十六歳で、私とは腐れ縁な感じの、ぱっと見ならすごい美少女に見える、ダークエルフ族の死霊術師。その彼女が、茶封筒から通知書を引っ張り出して、ひらひらさせた。
  
『 所属変更の通知書
  骸骨兵団、骸骨儀仗騎士団及び漆黒馬車団は、星歴1229年8月17日付けをもって、システィーナ姫殿下付きに、所属が変更される。
 
  宛 死霊術魔導院長 殿
  発 魔王帝国財務卿   』

 死霊術魔導院長様は、カルフィナのお爺ちゃん。ファレンカルク伯爵経由でお願いして、現在の帝国財務卿に公文書を発行してもらった。これで、今日から、骸骨兵団は私付き戦力になったの。
 まあ、死霊術魔導院が管理している骸骨兵団は、他の軍団で使用しない余り物で、つまり遊休資産だった。だって、人類の諸王が無駄な抵抗をするから、骸骨なら有り余っているものね。

 その骸骨兵団を実質的に管理しているのが、さっきからキャンキャン喚いているカルフィナ。死霊術魔導院長の孫娘で、死霊術師。つまり、ネクロマンサという希少職種の担い手として将来を期待された逸材なの。ね、戦力として、欲しいでしょ。それに、カルフィナがいないと、喧嘩友達がいなくて、寂しい。

 だから、私はにっこりとうなずいて見せた。
「カルフィナも来て」
「……」
 カローナは、ギンと見返してくる。本当にきれいな青い瞳をしている。薄褐色の肌もきれいだし、私よりもプロポーション良いし。私もカルフィナみたいに、なれたら良かったのに。

 だから、畳みかける。
「カルフィナも来てほしい。カルフィナがいないと寂しい」
 だって、中央帝都を離れて遥か遠い場所に行くんだよ。幼馴染のカルフィナも連れて行きたい。来てくれないと本当に寂しい。

「あたし、中央帝都で勉強するって決めてたのよ。取りたい資格だってあるし、覚えたい魔術だっていろいろあるのに~」
 カルフィナが顔を赤らめて言う。
「こういう強引なのシスティーナの悪い癖だよ。だって、骸骨兵団や漆黒馬車は、あたしがいないと動かせないでしょっ!」

 うなずいた。骸骨兵団は、死霊術師のカルフィナがいないと、ただのカルシウムにすぎない。死霊術師は人数が少ない限られた人的資源なので、戦いの場面では使いにくい。それに、骸骨兵って、見た目ほどは強くない。だって、骨だけしかないんだもの。だから、他地域の魔王城や、他の兵団ではあまり使われていない。遊休資産なのは、事実だった。

 だからね、こんなことしたの。
「骸骨兵団をまるごと私付きにしたら、もれなくカルフィナも付いてくると思った」
 悪いけど、私も引くつもりはない。カルフィナだけは、わがまま言ってもいい相手だもの。
「あんたって子は…… あたしをなんだと思っているのっ!」
 じっと、カルフィナの青い瞳を見詰めた。カルフィナの青い瞳が、私の赤い瞳に魅入られた。勝ったと確信した。
「大切なお友達。いないと寂しい」
 かぁ~っと、カルフィナの顔が赤くなった。耳たぶまで赤い。

「……あたしには、資格取得の勉強があるのに、どうしてくれるのよ」
 カルフィナが瞳を潤ませていた。半べそ顔も可愛い。

「お嬢ちゃん、資格取得なら、俺たちが教えようか?」
 後ろから複数の声が沸いた。カルフィナと私が同時に振り向いた。

 たくさんのニヤニヤ笑顔が笑っていた。
 舞台の上に集めたのは、各界でトップレベルのプロフェッショナルたち。実務優先で習うならば、中央帝都の学習塾よりも、優れたメンバーが幅広く集まっていた。何せ、更地から大都市を丸ごとひとつ建設しようとしてるんだから。

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