生まれる前の沙の夢 #12
生まれる前の沙の夢 #12 ~羽根

 大鐘楼への通路は、そんなに探し回らなくっても、すぐに見つかった。
 目が回りそうな螺旋階段を駆けあがった。走らなきゃいけない理由はないのに、なぜか、圧迫感があるの。不安のようなものかな? 大鐘楼には、私が知らなければいけない真実を携えて、シアが待っている。
 ペザを滅ぼしたのは、本当は誰の魔法なのか?
 その答えは……たぶん、聞きたくない。
 でも、ラスに嘘をついてまでして、砂の夢を見たのは、それを知るためだから……
 そう、ラスが、あんなにも隠し事をした理由だから。
 大勢の人たちの反対を押し切って、私を隠すように庇って。
 そして、私の心が傷つかないように、真実を隠して。
 まるで、秘密の鳥籠の中の小鳥のように。
 私は、もう、その答えに気づいている。
 クレッセントがヒントをくれたからね。
 お母さんは、私の名前で呪詛世界への扉を開いた。
 後は、シアに尋ねて確かめるだけ。
 たぶん、シアが預かっているお母さんの言葉が、きっと、その答えだと思うから……
 不思議ね。その答えは、すごく意地悪なのに……聞きたくないって思うのに……早く確かめてしまいたいって、そうも思うの。
 だって、いつまでも、何も知らない子供のままじゃいられない。
 ずっと、籠の中の小鳥のままじゃ嫌だもの。


 大理石で作られた白亜の塔、その最上階へ駆け上がった途端、私は悲鳴を上げそうな口元を被った。
 数え切れないほどに、鳩の屍骸が大鐘楼の床を埋めていた。まるで、雪のように、もげた羽が降り積もっているの。
「沙加奈、ずいぶん遅かったわね、ずっと、待っていたのよ」
 シアだった。でも……まるで別人のように、声が冷たい。
 大鐘楼の中央に……無数の鳩の屍骸に囲まれて、シアが佇んでいる。
 そして、その右手には、一本の引き綱が握られていた。綱は、大鐘楼に吊るされた巨大な七つの鐘へと続いている。
「きれい……」
 天井を見仰いだ私は、思わず、そう、声を漏らしてしまった。本当に、美しい鐘なの。不思議な青みを帯びた真銀で鋳造された七つの鐘は、どれも見事な彫刻が施されていた。そして、古代魔法文字で描かれた無数の呪文が、びっしりと彫られているの。
 でもね、シアの冷笑が私の感嘆を遮った。
「あなたって人は……本当に、お馬鹿さんね……良く、ご覧なさい。彫られた文字を……」
 いわれて、水鏡のような鐘の表面を飾る魔法文字を見遣る。ほとんどが難しくって読めないけど……私、古代文字文法も苦手なの。シアは、私がそれに気づくまで、たぶん、予定外に長く待ったと思う。
 えっ?
 私が彫られた文字の一行に気づいて、表情を変えた途端、シアがため息をついた。
「これが、何なのか、わかった?」
 私は、微かにうなづいた。
「暁星の魔道師が星魔法でお父さんを封印した……これが、そうなの?」
「そうよ」
 音楽講堂で別れた時と、シアの雰囲気が違う。ううん。そうじゃなくって、あの時、押さえ切れなくなっていた感情が弾けたように感じた。
 だから、私は怖くなった。でも、問わずにはいられない。
「でも、どうして……ペザの人たちは、こんなことをしたの?」
「その訳も鐘に彫ってあるわ……読めないの?」
 シアの言葉は、投げつけるように冷たい。
「……ごめんなさい」
 私は、本当に、古代文字文法は苦手なの。
「もお、あなたって人は……仕方ないから、私が読みます」
 シアは、ため息をついた。これじゃ、まるで、補習を受けているみたいな気分だよ。
「呪詛満つる世界の妖魔の王を屈服せしめた証として、そして、我らがペザの偉大なる繁栄と栄光を称えんために、虚負の呪力を秘める七つの鐘にその妖魔の王を封じ、この大鐘楼に掲げる。いかなる妖魔たりとも、かれらの王を封じるこの鐘の呪力の前には跪くであろう」
 シアが呪文のように言葉を紡いだ。
 私は、呆然とそれを聞いていた。
「こんなのひどいよ」
 お父さんの顔さえ知らないのに悲しかった。なぜって……これが、私がお父さんを知らない理由だった。なのに、ペザの人たちは、妖魔の王を捕らえたことを自慢しているの。
「何を泣いているのっ!」
 シアの声が詰問するようにいう。
「だって、妖魔だからって、それだけの理由で、こんなひどいこと……」
「妖魔だからよ……ペザだけじゃないわ。どこの世界でも、人々は妖魔を恐れているし、できるなら滅ぼそうとしているわ」
 シアのいう通りだった。
「沙加奈、あなただって、呪詛世界の妖魔なのよ……それも、とんでもない魔法力を秘めた」
「そんなこと……ないっ!」
 そんなこと、認めたくなかった。アズレイア門で呪詛世界への扉を開きそうになった時から、ずっと、そんなこと、認めたくなかった。
「そんなこと、やだっ……だって、ずっと……」
 でもね、半べそをかいた私の言葉を遮るように、いきなり、シアが綱を引き鐘を鳴らした。
 水鏡のように蒼い七つの真銀の鐘が、頭上で鳴り響いた。
 信じたくないけど……突然に私の身体の中で、血が沸き返ったの。
 虚数魔法の呪文を刻まれた真銀の鐘が、虚負の魔韻を鳴らすの。
 真銀の蒼い鐘が鳴るたびに、身体中に激しく痛みが走り回るの。我慢し切れなくなって、膝をついた。
「シア……やめて……痛い……」
 何とか声を出せたけど、か細くって悲鳴にすらならない。
 そんな私の姿をシアは……まるで人が変わってしまったかのように、冷たい声で笑っていた。とても虚ろな笑い声だった。少しも楽しそうじゃなくって、無理に作ったような乾いた笑い声が揺れていた。


 気を失っていたのは、たぶん、そんなに長い時間じゃないと思う。
 ひどく身体が重い感じがした。
 あの鐘の音は止んでいた。
 代わりに、風の音がした。
 目を開ける。
 私は、無数の死んだ鳩たち中に埋もれて、眠っていたの。
「もう、どうしてよ……」
 シアがすぐ傍にいた。
「仕返ししてあげるつもりだったのに……」
 しゃくりあげるように泣いていた。
「沙羅のこと、ずっと、親友だって信じてたのに……」
 私は、ぱさぱさになった鳩の羽根に包まれて、ぐったり身を横たえたまま、シアの泣き声を聞いていた。
 シアは、私に気づいていない。ずっと、気絶した私の傍で、ひとりで泣き続けていたの。
「シア……」
 呼びかけると、シアが気づいて振り返った。
「気がついた?」
 さっきの冷たい声じゃなくって、初めて会った時と同じ甘酸っぱい声がいう。
「……うん」
 まだ身体が痺れていたから、弱くうなづけただけ。
 風が吹くたびに、鳩の屍骸から降り積もった羽根が舞い上がる。
「痛かった?」
 気遣うような柔らかい声だった。
「うん、でも、ちょっとだけ」
「うそつき……気絶したくせに」
「ごめんなさい……」
 涙を手で拭ってから、ふふっと、シアが笑う。
「私こそ、ごめんなさい……沙加奈に仕返しなんかしても仕方ないのにね」
 そっけないやり取り。私も微かに笑った。
「この鐘の音はね、刻まれた文字の通りです。私たち、人には涼やかに聞こえるけど、妖魔には苦しみの魔韻なんです」
 うん。そう、私はうなづいた。
「私も、一応は、妖魔みたいだから……」
 今度は、少しだけ素直に答えた。まだ信じたくないし、あまり自覚がないけどね。
「何でも、呪詛世界の皇女様らしいから……全然、自信ないけどね」
 シアが声を潜めた。
「沙加奈、あなたはね、ギルティアの娘なの……もっと、自信を持って。だって、あの人は、とても高貴な心の持ち主でした。優しくて、気高くて……」
 だから、沙羅はあの人のことを愛したの……と、シアはいい添えた。シアにとって、お母さんは親友だった。だから、ギルティア……つまり、お父さんのことも良く知っていたの。
 背伸びをしたシアが、ゆっくりと歩み出した。私も起きあがって、後を追った。

 大鐘楼から見下ろす大理石の街並みは、もう誰もいないのに、整然として美しかった。
「あの頃が一番楽しい時でした」
 シアが街外れの公園を指差した。
「沙羅と、ギルティアと、私と……良く三人で街に遊びに行きました。私たち三人とも異世界からの留学生だったから、すぐに仲良しになれたの。沙羅がアルトシア、私がカイハネア、ギルティアは……すぐには教えてくれませんでしたけどね」
 思い出話をできたこと自体が、とても、うれしそうだった。
 私は、そんなシアが痛々しくって……何もいえず下を向いた。
「アイスクリームを食べて、公園では歌を歌って、いつも三人で遊んでいたんです。もちろん、時々、まだ、おチビさんだったラスとセシュナも一緒でした」
 そうして、シアが振り向いた。大鐘楼の天井から吊るされた蒼く濡れたように輝く七つの鐘に……
「ギルティア、あなたが、こんなことになりさえしなければ……」
 シアが視線を伏せた。さらさらの髪に隠れても、足元に落ちた涙が泣いていることを教えてくれる。
 声をあげず、でも、小さな肩を震わせて、シアはしゃくりあげた。ずっと、誰かに想いを話したかったんだと思う。砕けてしまった楽しかった日々のことを。
 私は、何もいえなかった。何て、声をかけて良いのかもわからなかったの。
 それは、ラスとセシュナ様の思い出話のときもそうだった。
 私は、こんな砂の夢まで見て、私が生まれる前の真実を知ろうとしている。だけどね……手が届くのは……知ることができるのは、何が起きたのかという事実だけ。お母さん、お父さん、シア、セシュナ様、そして……ラスの本当の気持ちや想いまでは、どんなに頑張っても入り込めない。ううん、手を触れてはいけないと思う。
 だから、シアが泣き止むまで、風の音を聞きながら待ち続けた。


 シアが微笑んだとき、涙と一緒にわだかまりも流れてしまったかのようだった。
「約束でしたね……真実をお話します。そして、沙羅からの伝言も……」
 微かにうなづくと、シアは首を振った。
「気持ちをしっかり持って聞いてください。でも、我慢できなくっても、仕方ないです……そんなお話です」
 そして、シアの淡い色の唇が、残酷な真実を紡ぎ出すのを待つ。

「ギルティアが処刑されたのは、沙羅があなたを身篭ったからです」

 ちゃんと覚悟したはずなのに、身体が震えた。何もいえずに、シアが次の言葉を紡ぐのを待った。
 シアは、優しく微笑してくれた。ちょっと意地悪なところがあるけど、本当は優しい子だって思う。だって……残酷な過去を後ろ手に隠して、こんな風に笑えるんだもの。
 微かに戸惑うように言葉を選んで……でも、良い言葉が見つからなくって……そんな表情が困ったように揺れる。
「ギルティアは、沙羅とあなたを庇ったんです。代わりに自分が犠牲になって……自分が妖魔であることをペザの人々に告げて……本当なら巨大な魔力を使えたのに無抵抗なままで……」
 ふいに悪戯っぽく、泣き笑いの表情が揺れた。
 シアが押し被さって来たの。
 ふたりで死んだ鳩たちの羽根に埋もれた。
 シアの身体の温かみが伝わって来る。それは、シアの見ているこの夢の中だけの温かみだけど。
 シアの柔らかくて暖かい髪が、私の頬に流れ落ちて来る。乾いた砂の夢の中なのに、淡いジャスミンの香りがした。
 鳩の羽根が降り積もった私の髪を撫でるように払い、耳元に唇を寄せてくる。
「あなたはね……」
 シアが私の耳元にささやいた。

 あなたはね、転移門の守人の血筋にありながら、呪詛世界の在り処を知っている。そして半分は、妖魔の血と魔法力を受け継いでいる。シアは、身篭ったあなたの魔法力を使ってペザを滅ぼしました。
 ギルティアは、そんな魔力を持つあなたの存在を隠すために、身代わりになって滅ぼされたんです。

 確かめてしまうと、それが真実になる。
 私は、きっと、怯えた瞳をして、シアの言葉を聞いていたと思う。
 シアは、怖がりな私をぎっと抱いてくれた。
 ううん。そうじゃない。シアも私も、たぶん独りぼっちが苦手なんだと思う。だから、怯えてしまうと、誰かの温もりが欲しくなる。
「どうして、こうも上手く行かないんでしょうね……ギルティアは、沙羅とあなたを隠したかったのに……沙羅は月に魅入られてしまったし、結局、ペザは滅んでしまったなんて」
 シアの淡い唇から、淡い悲しげな溜め息がこぼれた。
 ふたりとも、そのまま何もいえなくなってしまった。

 私とシア。ふたりで死んだ鳩たちの羽根に埋もれて、時が過ぎてゆくのをぼんやりと見ていた。時々、風が吹いて、鳩の羽根が舞い上がる。私の耳元にシアの息遣いが聞こえる。折り重なったふたり分の鼓動が微かに感じられる……それがだけが、廃墟になった「時間」の総てだけどね。

 どれくらい時間が経っただろう……シアがひとりごとのように、話し始めた。

 お母さんは必死になって、お父さんの命乞いをした。でもね、ペザの王様はもちろん、ペザ世界の誰もが耳を貸さなかったの。
「あんなに愛していたのに、あんなに一生懸命になったのに、沙羅は救えなかったの……」
 シアの声が、淋しそうに、ぽつぽつと話す。
「ねぇ、おかしいと思いませんか? 妖魔だっていうだけで、沙羅が妖魔に恋をしたっていう、たった、それだけで……」
 シアが泣きそうな声で訴えかけた。
 今度は、私が、答えを返せなかった。
 だって、転移門の守人は、世界を守護する結界に開いた唯一の扉を守っているの。だから、どんな時でも、たとえ何を犠牲にしてでも、時空転移門を守らなくてはいけないの。
 だから、妖魔に恋をしてしまうなんて、許されないことなの。
 なのに……お母さんは転移門を使ってペザを滅ぼしてしまった。
 私が持っている星の力は、お母さんから受け継いだものなのに。
 それなのに、お母さんは月に魅入られて、大勢の人々を殺めてしまった。
 お父さんを失った悲しみが、希望の星を捨てさせて絶望を選ばせたんだろうか? それとも、ペザの人々に仕返ししたかったのかな?
 だって、お父さんを封印した魔道師を捕らえるためだけに、あんな酷いことをするなんて考えられない。
「ペザを滅ぼしてしまった数日後、沙羅は……変わり果てた私のところに来ました。砂の山になった私に、何度も何度も泣きながら詫びてくれた。本当は、それで、良かったの……気が済んだって思ってました」
 それから、シアは悪戯っぽい笑みを揺らした。
「でもね、沙加奈を見てたら、少しだけ意地悪したくなっちゃったの。なぜかな? 私に似てたからですね、きっと……」
 私も、うなづいて見せた。

 シアが伸びをして、立ちあがった。
 私も後を追った。
「さあ、話が長くなっちゃったけど、沙羅からの伝言ね。いつか、ペザにあなたが来たときに伝えて欲しいってね。もう、沙羅は二度と呪詛世界から外に出られないから……代わりにって」
 そう、前置きしてシアが伝言を言葉にした。


 どうか、希望を諦めないで。
 微かな希望だとしても、諦めずに見つけ出して叶えて。
 たとえ、無数の砂粒の中からでも探し出して、たとえ、どんなに苦くても星の希望を叶えて……あなたには、そんな願いを込めて、私たちは沙叶と名付けました。

 私は、希望の星を見失って、愚かな憎悪に身を委ねてしまいました。
 愛する人を失った悲しみと、愛する人を奪った者たちへの憎悪と。
 ただ、負の感情を抱いて、差し出された蒼い月の魅惑に、すがりついて……多くの人々を殺めてしまいました。
 本当は、絶望だけではなかった。
 ギルティアは、私の中に、あなたという希望を遺してくれたのに、それなのに逆に……あなたさえいなければ……一時でも、そう思ってしまいました。だから、あなたの魔法を使ってペザを滅ぼしてしたのです。
 でも、これは、総て私が負うべき罪です。
 あなたは、ただ、希望を信じてください。


「いい贈り物ですね。名前って……そう、思いませんか?」
 立ち尽くした私を気遣って、シアが優しく微笑む。
「両親が初めてくれる贈り物で、しかも、ずっと残るものだから。ずっと一緒にあって、自分の拠り所となるものだから。生まれて来た証だから。そして、生まれて来たばかりの命に与えられる初めての願いだから」
 私の……両親が付けてくれた本当の名前が、沙叶。
「ずっと、おばあちゃんが、沙加奈って名付けてくれたと思っていたけど……それは、悲しい過去を閉じ込めるためだったの?」
「沙加奈……」
 シアは、私の名前を優しく呼んでくれた。
 でも、私の中から熱い涙があふれて来る。
「こんなのやだ……私は、生まれる前にたくさんの人たちの生命を奪って……私さえ、いなければ、こんなことになんか……」
 生まれて来なければ良かった……そう、言葉にしかけて、気づいた。
 気づいた途端、涙が止まらなくなる。
「私、生まれて来ることすら……望まれてもいなかったの」
 そう、お母さんは、私を身篭っていた間だけ、呪詛世界への扉を開くことが出来た。
 お母さんが、私を身篭った時から、総ての不幸が始まった。


「それは、違います、沙加奈姫……」
 とても優しくて、大好きな声だった。
 ラスだった。
 突然に、ラスが、鳩の屍骸だらけの大鐘楼に現れたの。
「どうしてっ?」
 驚いて問うと、ラスは優しく微笑した。私を安心させくれるあの笑顔が揺れる。
「私も、砂を少しだけ被りました。沙加奈姫と同じ砂の夢を見るために、これを届けるために……」
 歩み寄ったラスの手が、私の手を包み、小さな種を移した。
 淡い紅色をした種だった。
「胡蝶草の種です。悪夢を解かして、浄化するための……沙加奈姫の星の魔法なら、初めの一握りの砂を浄化し、この種を芽吹かせることができます。数百年はかかるかもしれませんが、やがて、呪われたペザの総てを浄化できるはずです」
「本当に?」
 瞳をまんまるにした私に、ラスが優しく微笑んだ。
「本当です。沙加奈姫、あなたは少なくとも私にとって、大切な希望ですから……私は、あなたが生まれる前から、あなたを希望と信じていましたから」
 これは、セシュナ様に聞いた、ラスのお母さんの記憶のことをいっているの。不完全な時間凍結封印で砕け散ったラスの想い出。大切なラスお母さんの思い出が、私の中にあるって……セシュナ様が嘘をついた、あのお話のことよ。
「ラス、どうして、そんなに優しくできるの……」
 私は、涙があふれて、ただ、ラスにすがりついて泣きじゃくったの。

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